七夕のねがい
七夕の夜あなたはお星さまに何をお願いしましたか?子どもの頃、毎年我が家では父が裏の竹林から笹を切り出し、きょうだいで手作りした色々な七夕の飾り付けをしました。短冊には、それぞれの願いごとを書きました。旧暦で祝う七夕は長い夏休みの大きなイベントの一つでした。
子どもの私が短冊に何を書いたかは覚えていませんが、忘れることができない一つの願いがあります。保育園児の兄が二つ違いの妹のことをお星さまにお願いしたものです。「〇〇があるけるようになりますように」兄は覚えたてのひらがなで一心に願い事を書きました。妹はある病気が原因で歩くことが難しかったのです。兄は妹が歩けるようにと只々願いました。
妹はきょうだいと同じ地元の小学校に入学しました。入学式の後のクラス会で母はクラスメイトたちに届く言葉で妹のことを隠すことなく話しました。クラスメイトはごく自然に妹を受け入れてくれました。学校生活ではたくさんの支援を得ることができました。小学校の運動会で、妹は車いすで土のグランドを走りました。土埃の舞うトラックを50メートル、誰の助けも借りないで妹は車いすを回し続けました。アームカバーを付けていても腕の内側はタイヤと擦れるため妹の腕の皮膚は赤く爛れていましたが、ゴールを目指して妹は一生懸命に走りました。妹がゴールするまで学校中のみんなが声援を送ってくれました。
妹は小学校の友達と同じ中学校に進み、修学旅行等たくさんの新しい経験を積みました。中学校の卒業アルバムが今も一番の宝物です。そこには、友達や先生たちの笑顔があり、一緒に過ごしたあの日に戻ることができます。
高校生になった妹は関東で生活することになり、ふるさとの街での生活より更に動けるようになりました。電車やバスは事前の乗車予約なしでも、自分の行きたいところを自分で決めて支援者さんと二人で自由に動くことができます。それは誰にとっても普通のこと、妹にとっても特別なことではなくなりました。
兄の願いは届きました。妹は色々な人から愛され、色々な人に囲まれて支えられ、自分らしく歩いて自分らしく生きています。
今年の初夏、兄はパートナーと新生活をスタートさせました。兄も自分の新しい世界への一歩を踏み出しました。きょうだいはそれぞれ自分で決めた道を歩んでいます。七夕の願いごと、どの子の願いもかないますように。
(石丸)
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