「保護」から「養育」
子どもの権利中心の
児童福祉施策へ
2016年、国は「児童福祉法」抜本改正を行い、子どもの権利(第一条)、
子どもの最善の利益優先原則(第二条)、家庭養育優先原則(第三条の二)を明文化しました。
これ以降、戦後の孤児対策として始まったわが国の児童福祉政策は、
それまでの「保護」の観点から、権利主体としてのすべての子どもの「養育」へと
大きく舵を切りました。
新しい社会的養育ビジョン
『家庭における養育環境と同様の
養育環境』政府目標数値
目標達成に向けて定められた
子ども家庭庁の子どもまんなか社会
改正児童福祉法では、全ての児童が健全に育成され、生活を保障され、愛され、保護され、心身の健やかな成長・発達や自立等を保障される権利を有していること、子どもの最善の利益が優先されなければならないこと、福祉の実現のために、家庭または家庭と同様の環境における養育を推進することと定められています。
この実現に向けて国と地方公共団体等の役割・責務が明確化され、政府は里親委託率の数値目標を定め、地方自治体は社会的養育推進計画の策定と数値目標の設定を行うなどが定められて今日に至ります。
2023年には「こどもまんなか社会」を掲げて「こども家庭庁」がスタートしましたが、現在の里親委託率は依然23.5%と当初目標には遥か及ばず、諸外国に比べてかなり低い状況が続いています。
各国の要保護児童に占める里親委託児童の割合
(注)2010年前後の値、日本のみ2022年3月末。
※「家庭外ケア児童数及び里親委託率等の国際比較研究」主任研究者開原久代(東京成徳大学子ども学部)(平成23年度厚生労働科学研究「社会的養護における児童の特性別標準的ケアパッケージ(被虐待児を養育する里親家庭の民間の治療支援機関の研究)」
低下する現代社会の養育力
現代家族を取り巻く環境は大きく変化しました。少子化、核家族化や都市化の進行、情報化の進展などにより、人間関係の希薄化やコミュニティー意識の衰退が進み、特に近年のコロナ禍による経済環境の悪化や人との交流機会の減少といった社会状況も相まって、現代家族の脆弱化、孤立化は一層深まっています。
児童虐待の相談対応件数は、過去20年間で12倍と急増を続けており、令和4年には21.9万件を超えました。子どもの命が奪われる重大事件も後を絶たず、深刻な社会問題化しています。虐待などさまざまな理由により家庭で育つことのできない子どもの数は確実に増加してきていると見込まれます。現代日本は再生産能力が衰え、子どもが生まれにくく育ちにくい社会になってしまったと言えます。
令和4年度中に、全国232か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は
219,170件(速報値)で、過去最多。
※対前年度比+5.5%(11,510件の増加)(令和3年度:対前年度比+1.3%(2,616件の増加))
※相談対応件数とは、令和4年度中に児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数。
主な傾向
- 心理的虐待に係る相談対応件数の増加(令和3年度:124,724件→令和4年度:129,484件(+4,760件))
- 警察等からの通告の増加(令和3年度:103,104件→令和4年度:112,965(+9,861件))
令和3年度と比して児童虐待相談
対応件数が増加した自治体への聞き取り
- 関係機関の児童虐待防止に対する意識や感度が高まり、関係機関からの通告が増えている。
※平成22年度の件数は、東日本大震災の影響により、福島県を除いて集計した数値。
年度 | 平成23年度 | 平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 | 平成27年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和1年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
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件数 | 59,919 | 66,701 | 73,802 | 88,931 | 103,286 | 122,575 | 133,778 | 159,838 | 193,780 | 205,044 | 207,660 | 219,170 |
対前年度比 | +6.3% | +11.3% | +10.6% | +20.5% | +16.1% | +18.7% | +9.1% | +19.5% | +21.2% | +5.8% | +1.3% | +5.5% |
児童虐待相談対応件数(令和4年度速報値)
(厚生労働省「令和4年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)より」
現代家庭の養育力の低下は、各家庭の個人的な問題に留まらず、
日本が抱える大きな社会的課題として取り組まなければならない時を迎えています。
すべての子どもたちに家庭養育による健やかな育ちを保障していくため、私たちは
こうした問題意識に立ち、里親の普及、推進支援を図り、活動を行っています。
実親と暮らせない
子どものために
必要な
「養育里親」の存在
子どもの健全な育ちには、特定の大人との愛着形成が不可欠です。幼少期に十分な愛着関係を経験できない子どもは、脳の発達をはじめ、心身の発達が遅れることも科学的に証明されています。
現在、多くの要保護児童が児童養護施設等で生活を送っていますが、さまざまな事情により親と暮らせない子どもたちにも、その健全な成長と発達のためには愛着形成ができる家庭養育の環境が大切です。しかし、家庭養育の基本的な形である里親の数が絶対的に不足しているのが現状です。
少しづつ満たされる
しっかり満たされる
私たちは、家庭養育を必要とする子どもたちのために、里親の推進、育成、そして息の長い里親家庭支援を目指しています。なかでも特に重点をおいているのが①愛着形成の上で極めて重要な時期である0~2歳児期の子どもたちのための里親を増やすこと、また、②困難体験やさまざまな事情を抱えた子どもたちのために適切な養育スキルを備えた里親の育成、そして、③委託後も切れ目なく里親を支え続けることです。
子どもリエゾンえひめの
チャレンジ
子どもリエゾンえひめでは、子どものための里親制度について広く知っていただくことで、
里親への関心と理解を高め、里親さんを募ります。
また、専門的な里親研修を行い、様々な事情を抱える子どもを養育する力のある里親さんを育成します。
そして出会った子どもと里親さんが長く一緒に過ごせるよう、切れ目なくサポートします。
里親意向がある人の
現状のボリューム
里親意向がある人は6.3%。
日本の20代〜60代人口に換算すると約504万人が里親意向を持っている
「里親になってみたい(1.7%)」、「どちらかというと、里親になってみたい(4.6%)」を合わせると、6.3%の人が里親意向を示した。推計すると、約504万人が里親意向を持っていると考えられます。
愛され育てられる権利をすべての子どもたちに実現するために、
社会の里親に対する潜在的ニーズに働きかけ、里親家庭を増やし、育て、応援を続け、
すべての子どもの健やかな育ちを地域社会の人々とともに支え
見守って行くことを目指して活動していきます。