コラム

見せかけの前進


 以前ご紹介した児童精神科医である故・佐々木正美先生が、心理学者のエリクソンの言葉である「見せかけの前進」について書かれていました。強大な独裁者が君臨している国で見る、あの整然とした行進、そのような「見せかけの前進」を子どもも体現することがあるというのです。
 親が「こうあってほしい」とプレッシャーをかけている子どもは、親の描いた道をそのまま行進していく、その道を踏み外したら、親に愛してもらえない、と子どもは感じているからです。愛してもらえなければ生きていけないから、子どもたちは必死。しかし、見せかけの前進は、自分で決めた自立的なものではないので、前進する力は弱く、ささいな事でストップし、それだけでなく、前進することへの不満が爆発して、攻撃的になることもある、との佐々木先生の文章は、私にとても響きました。
 独裁者の国が豊かになれないように、そのような子どもの人生が豊かになるのは難しいのではないか、私も同感です。
 子どもは、健気(けなげ)です。また親も、プレッシャーをかけているつもりはない、と思いながらも、なんだか皆に置いていかれるような焦りから、知らず知らずのうちに子どもを追い詰めてしまっていることもあります。子どもが自信を無くす前に、また攻撃的になってしまう前に、見せかけの前進を止めてあげる事、社会で考えていきたいものです。
(西﨑)

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