いちじくの思い出
9月に入りフルーツ王国愛媛では色鮮やかな秋の美味しいくだものが出回っています。我が家でも旬の果物が食卓に並ぶようになりました。ブドウが大好きな夫は毎朝大粒の甘いブドウを口一杯にほおばります。その傍らで私は、知人からいただいたイチジクを仏壇にお供えして、お下がりをいただきます。
イチジクを見て夫は、義母が果物の中でイチジクが一番好きだったと、毎年同じ話をします。夫はとても穏やかな表情でとつとつと語ります。母のことが大好きだった小さな子どもの頃を思い出しているかのようです。
いちじくで私が思い出すのは、5歳だったAちゃんのことです。1995年1月、兵庫県に住んでいたAちゃん一家は阪神淡路大震災で被災しました。幸いにも家族は無事でしたが、ライフラインやその後の余震等の心配から、Aちゃんだけ愛媛県の祖父母宅に避難しました。Aちゃんは大好きな父母と離れて2ケ月、泣くことも駄々をこねることもなく過ごしました。
春のお彼岸の祭日に、Aちゃんは従妹たちと一緒にアイテムえひめに出かけました。Aちゃんはケースに並ぶ外国の珍しいお菓子を手にとることもなく、催事ブースに行き乾燥イチジクを手に取って「ママが大好きなの、これをママにあげるの」と言いました。その日の夜、Aちゃんは自分で父母に電話をかけて「帰りたい、大変でもママと一緒にいたい」と言ったそうです。Aちゃんは桜の花とともに兵庫県に帰りました。
子どもは子どもなりに一生懸命に自分を取り巻く全てのことを考えています。子どもが経験を言葉にする傍で静かに受け入れ寄り添う大人でいたいものです。
(石丸)
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