コラム

処暑のシャインマスカット


 処暑を迎え、朝夕の風と虫の音に秋を感じたその日、友人からお便りがありました。「ハウスのシャインマスカットを採り始めます。今年の8月は雨が降らなかったから、路地ものは大きくならないかもしれません。」この8月、松山では雨が全く降りませんでした。8月19日にやっと一日だけ雨が降って、我が家のレインリリーが一斉に咲き、恵みの雨に植物が答えているのを見ました。
 友人は実家のブドウ栽培のお手伝いをされています。一年を通してご両親のブドウ園に通い、その知識と技術を少しずつ受け継いでいます。春の開花から受粉・摘果、暑い夏には秋の収穫に向けた作業が続きます。収穫時期には、ご近所の親戚一同が自然に集まって賑やかにおしゃべりしながら、手際よく和やかに収穫し出荷作業をされるそうです。
 農業は大きく天候の影響を受けます。私の実家はミカン栽培をしていましたので、どの作業も一人ではできない、たくさんの手が必要だということを子どもの頃に体験しました。特に雨が少ない夏の農作業手伝いは大変でした。山のミカン畑では、貯水槽からタンクに水を貯めて、それをホースでミカンの木の根元に一本ずつかけていきます。小学生の姉と私はホースの先を持ってミカンの木の下をくぐって、父が指示する所まで引っ張っていきます。散水用スプリンクラーも併用していましたが、確実に木の根元に水を届けるにはこれが効果的だったようです。昼間は水が直ぐに蒸発してしまうため、父は一人で夜間潅水もしていました。その後、ハウスミカンの栽培も始めましたが、多大な設備投資が必要で農業経営の難しさを目の当たりにしました。
 かつて里親さん宅で農作業お手伝いをした子どもたちから、「しんどくて辛いことをさせられた」と聞いたことがあります。私もそうでした。手伝う意味がわかったのは自分が大人になって親が小さく見えてからでした。子どもながらに作業の手順を理解して動こうとしましたが、体力や体格、手足の発達が十分ではないため大人のようにはうまくできず、辛い記憶が残っています。あの時にどうだったらお手伝いが辛くなかったか。ブドウ栽培をしている友人宅のような環境、穏やかで和やかな大人の集まりが包んでくれること、大人が一緒に笑いながらいてくれること、そして、収穫したものを待ってくれている人に届ける喜びを分かち合えること。それが次の希望に結び付き、仕事のやりがいとなるのでは。
 お施餓鬼法要に帰省した姉と私は、お城山が見えるホテルの席で子どもの頃の思い出を語り合いながら、シャインマスカットのケーキをいただきました。姉は「一粒一粒、味わっていただきます。」と手を合わせていました。夕方、姉がふるさとから出るのを見送るように空には虹がかかっていました。空から「見守っているよ、いいことがあるよ。」と教えてくれました。
(石丸)

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