白いうさぎ
立夏、風薫る青々とした草はらをうさぎがぴょんぴょんと跳ねて顔を出す、そんな季節です。この時期に想う女の子がいます。数年前のおはなし会に初めて来てくれた小学生のAちゃん。Aちゃんはふわふわ生地の白いノースリーブカットソーの服を着て、サラサラの長い髪を二つに分けた、まるで白いうさぎのようなかわいい女の子でした。小さな弟の手をしっかり繋いで入って来て、弟は不安そうにAちゃんの後ろにぴったりくっついておはなし会を過ごしました。
毎月一回のおはなし会にAちゃんきょうだいは来る時もあり、姿が見えない時もありましたが、Aちゃんは参加した時は必ずおはなし会の後に残って片付けを手伝ってくれながらおしゃべりをしました。
季節は夏から秋、冬へと進んだおはなし会で、あの白い服を着たAちゃんの姿がありました。クリスマスうさぎの手袋人形では、「りーんりん」とうさぎの小さな鈴が鳴るのをAちゃんはにこにこ笑って楽しんでいました。片付けをする時、袖のない白い服から出ている腕が寒そうに見えたので、「かわいいお洋服ね」と声をかけると「ママが買ってくれたの」と嬉しそうに答えましたが、目は少しうるんでいたように見えました。この日を最後にAちゃんきょうだいがおはなし会に来ることはありませんでした。しばらくして、Aちゃんきょうだいはお母さんに連れられて県外に転出したと聞きました。
季節が変わってもお母さんが買ってくれた服を着て、お母さんを待ち続けたAちゃん。服には抱きしめてくれたお母さんの香りやぬくもりが残っていたのかもしれません。子どもはお母さんが大好き、お母さんとおうちでいたい、その気持ちは何より大切にすべきことです。子どもが家庭で育つために、子どもも親も支援する。時に親は「子どもは自分のもの、どうしようが私の勝手だ」と主張することもありますが、子ども中心にして子どもにとって最善となるよう親との関係を作っていきたいと思います。
Aちゃんきょうだいが幸せに過ごしていることを願いながら、おはなし会でぴょんぴょん跳ねるうさぎをして子どもたちと笑顔の時間を過ごします。
(石丸)
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