コラム

卵の殻コツコツ


 日ごとに朝明るくなる時間が早くなり、戸外に出ると冬の間は見なかった小鳥の姿を見かけ、さえずりが聞こえてきます。郵便受けには、春休み目前の学習塾のチラシが増えてきました。学びの春です。私は人と会うことが好き、話を聞くのが好きで、いろいろな研修会に参加しては自分では経験できないことをたくさん教えてもらっています。
 2月に参加したある研修会の講師が、アイスブレイクで「遺伝的要素と環境的要素」の話をしました。「音楽的才能では遺伝的要素が90、学業成績は遺伝的要素が55、言語性知識は遺伝的要素が15」この数字に私はとても興味を覚えました。私が理解したところで言うと、「音楽は遺伝的要素でほぼ決まる、勉強は遺伝と環境はほぼ同じウエイトを占める、言葉は環境に左右され後天的なことが重要」。物静かなお父さんお母さんの子どもで誰に似たのかと思う程言葉を操る子どもがいるパターンによく出会うことがあり、私はなるほどと納得しました。
 ある会で、3歳の女の子Aちゃん、パパとママ、そして生まれて数か月の弟くんという家族に出会いました。始めにAちゃんは大人にしっかりご挨拶をした後、パパとママが用をしている間、Aちゃんはパパの隣で持参したお絵描き道具でのびのびと絵を描きながら、周りにいる大人たちとたくさんおしゃべりもしていました。Aちゃんを囲んで周りは明るくにぎやかでした。しばらくして、待つことに少し飽きたAちゃんがパパにちょっかいを出してもパパは優しい表情でAちゃんの行動を体遊びで受け止め、パパとママのAちゃんへのまなざしがとても柔らかくて穏やかな春の陽だまりのような時間が流れていました。
 Aちゃんのおしゃべりがとても楽しかったので、後日、私はAちゃん家族と接する機会を作ってくださった知人であるAちゃんのおばあちゃんに御家族についてのお話を聞かせていただきました。Aちゃんのパパとママはフルタイムでお仕事をされていて、時々おばあちゃんにヘルプが来るので、おばあちゃんはお願いがあったらお手伝いをする。パパママからは「お願い」サインが出せる家族がいて、職場や保育所だけでなく家族間でもパパママを支えることができる恵まれた環境です。社会的養育に関わる私たちの活動の中でこういう家庭は少なく稀かもしれませんが、おばあちゃんの言われたことで、いいなと思ったことがあります。それは、「パパママはAちゃんのことをよく見ていますね。見て、待って、声掛けしていますね。」パパとママのAちゃんへの声かけのタイミングがいいと。パパもママも社会的なことや仕事ではしっかり話をされるそうですが、Aちゃんたち子どもと接する時は、子どもの様子をしっかり見て待って言葉をかけているそうです。また、おばあちゃんはその様子を見守っておられます。
 子どもから目を離さない、心を離さない、見守っていて、ここぞという時にやさしく声かけして言葉を添える。これはわかりきった当たり前のことかもしれませんが、日々実践するのは難しいものです。子どもは自ら成長する力を持っている、それを信じてじっと見守る。早すぎることも遅すぎることもなく、子どもが求めるその時が来たら声をかけて手助けする。まさに「啐啄同時(そったくどうじ)」、鳥が卵から孵るときに、ヒナが卵の殻を内側からコツコツと叩く、親鳥は外側から卵の殻を優しくコツコツつつき返して殻を破ることと同じではないでしょうか。
 Aちゃんを見守るパパとママ、パパママを見守ってここと言う時に手を差し伸べるおばあちゃん。子どもにも大人にも見守って助けてくれる「卵の殻コツコツ」の環境が必要だと思いました。
(石丸)

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